前回はいにしえの架空の色男の代表として『好色一代男』の主人公・世之介を研究いたしましたが、今回研究しますのは、現代の架空の色男。ご登場いただくのは『課長 島耕作』でおなじみの島耕作でございます。
『課長 島耕作』は1983年からモーニング誌上に掲載された弘兼憲史によるビジネスマンガ。主人公・島耕作の仕事と恋を描き、サラリーマンマンガとしては異例の大ヒット作品となりました。島耕作はいろいろありながらも、それなりに順調に出世を果たし、いまでは社長となっており、マンガのほうもかなりビジネスよりになってしまっておりますが、今回は、彼の色男ぶりが最も発揮されていた課長時代のみを研究対象といたしましょう。
1947年生まれの島耕作は大手家電メーカー初芝電産の宣伝課に勤めるサラリーマン。彼の初登場は34歳の係長時代。物語は課長昇進の内示を告げる上司のセリフから始まっています。ただし、そのとき彼の部下には業務態度に問題のある女子社員が。これを放置しておいては昇進にも影響しかねない。そう判断した島耕作は、問題の女子社員を叱責するために食事に誘うのですが、気がつけば彼女のペースに乗せられ、ベッドをともにすることに。昇進を控えた妻も娘のある男としてはあまりにも軽率な行動。叱責するどころか大変な弱みを握られることとなってしまいました。その後、島耕作は、この情事がばれやしないかとびくびくしながら日々を過ごしているのですが、件の女子社員はあっさりと寿退社してくれるのです。もちろん島耕作との一夜は胸に秘めたまま。何たる幸運でしょう。
課長昇進後、彼は出納係の女子社員と不倫の関係を持ちます。口の堅い安全な女だと思っていたこの社員がライバル企業に自社の情報を流すスパイまがいの行動をしていました。スパイ行為を問い詰めようにも、自分には不倫をしている弱みがある。しかも、その情報は主に自分が彼女に寝物語で話したことだったりするわけですから、島耕作絶体絶命の大ピンチです。島耕作は、盗聴をしかけ彼女がスパイ行為にかかわっている物的証拠をつかんで辞職を迫ります。「辞めぎわにあなたとのことを話すかもしれないわよ」とうそぶく彼女に対しても「そんな証拠はないぜ」と突っぱねる島。結局、その女子社員はおとなしく辞職するのですが、実は彼女、島との不倫の証拠となる盗聴テープを持っていたのです。それを暴露しようと思えばできたのに、「好きになりそうだったから身を引いたの」などといって、何もいわずに消えてくれる。なんというできた女性でしょう。そして、島耕作はなんと女運に恵まれていることでしょう。
かように島耕作という男は、幸運な星の下に生まれてきているわけですが、その恵まれっぷりときたら常軌を逸しております。その後の彼の女性遍歴をざっとご紹介いたしましょう。
○出向先のニューヨーク。街でばったり出会ったブロンド女性とゆきずりのセックス。彼女が会社の同僚で、その後、ステディな関係に。
○上司の愛人である銀座のクラブのママのお目付け役を頼まれ、監視しているうちにミイラ取りがミイラに。
○ラスベガスのカジノでちょっといい感じになった美人ディーラーとサンタモニカでばったり再会しメイクラブ。
○別の上司の愛人に誘われるがままに。
○左遷先の京都の割烹のおかみに惚れられて。
まだまだ序盤も序盤なのですが、書いているだけであきれてしまうほどです。もう列記するのもばかばかしくなったので、この後はご自分の目でお確かめください。
で、島耕作という色男の最大の特徴は、この華麗なる女性遍歴のなかで、いっさい何の努力もしていないというところなのです。自分から口説くこともなければ、それとなく好意をほのめかすこともしない。もちろん「やらせてください」と懇願することなど、絶対にありえないのです。ただそこにいるだけで、女性が寄ってきて、「私を抱いて」と言ってくる、そんな状況なのです。
さらに、これだけ大勢の女性とお付き合いしておきながら、島耕作は女性に嫌われたことがないのです。さまざまな理由で別れざるをえなかった女性たちはいますが、それでも必ず彼女たちの心は島耕作に残ったまま、場合によってはのちによりを戻すことにもなります。ただ一人、島耕作を積極的に捨てた女性として、妻の存在がありますが、またその妻が嫌な感じの女性に描かれているのですから、「苦労せず別れられてよかったね。これはどう考えてもラッキーだね」ってな感じなのですから恵まれすぎています。
では、なぜ島耕作がここまでモテるのかを考えてみましょう。いくつか要因は考えられます。見た目が爽やかである、服装や身だしなみに清潔感がある、仕事ができる有能な男である、他人に対して誠実で思いやりがある、肝が据わっていて男らしい、ジョークを理解するセンスがある、などなど。実にいいことづくめです。これを一言でまとめてしまうとどうなるか。実に身も蓋もない言い方なのですが、こういうことになります。
「島耕作がモテる理由、それは彼が架空の存在だからである」
島耕作とはつまり作者・弘兼憲史が生み出した究極のビジネスマンにして、究極の色男であるわけです。現実世界には存在しえないほどに完成した色男なのですから、ただそこにいるだけで女性が寄ってきても、何ら不思議はないのです。
さて、世之介のときと同じような展開になるのですが、ここではたと考えてしまうのです。
「果たしてこれは羨むべきものなのか?」
勝手に女性が寄ってきて抱きたい放題の状況は、ぱっと考えると大変うらやましい状況のように思えます。たとえば1カ月や2カ月、そんな状況が続いたらどれほど楽しいことでしょう。でもちょっと待ってくださいよ。これが何年も、何十年も、一生続くと日常となってしまったら、果たして楽しいのでしょうか? 逆にありがたみがなくなってしまうのではないか。まあ、やっかみも大いに含んではおりますが、それでも「耕作よ、女を抱いて楽しいか?」 と問いたくなってしまいませんか。
そう考えると、色男を目指すということのある種のむなしさが浮き彫りになってきませんか? つまり、人数や回数を重ねればいいってものではないということです。島耕作が濃度100%の究極の色男だったとして、はたして自分がそうなったところで100%の満足を得られるかどうかは別の話です。
大事なのは、やったかやらないか、モテたかモテなかったかではないのです。どれだけ女性をありがたく思えたか、女性との交流に心を震わせることができたか、それが大事なのではないでしょうか?
【島耕作師匠の教え】
究極の色男なんて、意外と退屈なものかもしれないですよ。
さて、ゆるゆると続けてきました色男を巡る旅も、ついに終了の時を迎えました。
本来ならば、まだまだ研究対象とすべき色男のみなさんがいるのですが、この先はみなさまそれぞれの研究に委ねたいと思います。
島耕作は100%の究極の色男かもしれませんが、我々も我々なりにきっと何%かは色男なのです。女性に興味を持っているというだけで、色男としての最低限の資格は持っているはずです。先程も申しましたが、大事なのはモテることではありません。女性を愛し感謝することこそ大事なのではないでしょうか? そう思ったとき、あなたの目の前の色男への道はぐっと開けることでしょう。みなさまの健闘をお祈りしております。
(おわり)
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